【Society】「アスクルでシンナー直販」が地方の販売店を潰す理由
こんにちはー。
久しぶりに記事書くと思ったら、こういう話かってなりそうなんですが、もともとメーカーにいて流通についても色々知ってるので気になりすぎて。
今回の動きは下手すると「小売を殺し」「流通を殺し」結果として「現場を殺す」ことになりかねないなと。
実情を知らない「外野」が大騒ぎをして政府のパフォーマンスに喝采を送り、結果として「現場」が混乱することになりそうだなぁと思っています。

一見、素晴らしい「スピード解決」に見えるけど……
赤沢大臣が「シンナーや塗料の不足に対し、メーカー直販ルートを開拓し、アスクルを通じて現場に届ける」という方針を発表しました。
原材料不足に悩む現場にとって、一見すると「古い流通の目詰まりをITで突破した、政治のスピード解決」のように見えます。
しかし、販売商流の実態を知る人間から見ると、この政策は「現場への丸投げ」「無知が生んだ机上の空論」「適切なアロケーション機能の無自覚な破壊」が詰まった、極めて不誠実なパフォーマンスと感じてしまうんですよね。
悪気はないし、苦肉の策だったかもしれないんですが。
現場を知らない方達が踊らされているであろう、この政策に隠された「3つの注視しておくべきポイント」について書き下してみます。
■ ポイント①:「卸が止めている」という他責のロジック
政府はあたかも「中間の卸売業者が商品を出し惜しみしているから届かない。だから直販だ」というストーリーを作っていますが、これは完全な責任転嫁じゃないかなと思っています。
今回の不足の根本原因は、ナフサなど原材料の絶対的な不足・高騰です。卸業者は右から左へ流すのが仕事であり、在庫を抱え込むメリットなどありません。抱え込むと、結果的に利益圧迫になるんです。これは流通のみならず、各種メーカーに勤めたことがある方達ならみなさんよくわかると思います。「在庫=負債」なので。売ってなんぼだし、倉庫代も経費です。たとえ、それが自社倉庫であれ。
そして、今の中間卸の状況はむしろ限られた物資をどう地域に割り振るか、胃を痛めて調整しているのではないかと推察します。
政府は「原材料を確保できない」「今までと同じ価格据え置きで供給できない」という状況を隠すために、中間流通を悪者に仕立て上げているのではないかと。
多分、コメの時と一緒。
■ ポイント②:そもそもシンナーは宅配便で送れない(法律の壁)
ヤフコメとかみてたらなんか勘違いされてそうだなと思ったんですが、「アスクルなら明日サクッと届くのだろう」と思わされています。しかし、シンナーは消防法上の「危険物(引火性液体)」です。ヤマトや佐川などの一般的な宅配便では、事故の危険性があるため約款で配送が絶対禁止されています。
アスクルではすでに消防法上の危険物(指定可燃物や一部の引火性液体、除光液やアルコール類など)を通常配送のネットワーク内で数多く取り扱っているのですが、いくらアスクルにインフラがあるとはいえ、シンナーのような一斗缶クラスの厳しい危険物を大量に、かつ既存の配送ルートに載せて全国一斉に安全・迅速に配り切るには、物理的・コスト的な限界(積載量の制限や特別割増など)があると考えます。今まで以上に、当該の荷を受けられる運送事業者の確保も必要となるかと。なかなか、コレ大変ですよね。
当然ですが、この流通コストも「買い手側」の負担となりますので調達コストの上昇につながります。
■ ポイント③:「正しく分配する機能」の破壊
一番恐ろしいのは、「本当に困っている現場に届くのか?」という点です。
アスクルというECサイトができるのは、機械的な「先着順」や「数量制限」だけです。システムには「この整備工場は今すぐ塗料がないと潰れる」「この業者は買い占め目的だ」といった現場の切実さを判断する能力はありません。
本来、この「正しい分配(アロケーション)」をしているのは、地域の状況や人間関係を把握している地元の販売店や卸です。 今回の政策は、その地元の販売店をバイパスし、本来適切に各地域にアロケーションされていた商品配分をアスクルに一元集約させることに結果的になってしまい「きめ細やかな配分」が殺されてしまうかなぁと。まぁ、政府要請の受け手として本来商流にないものを突貫で乗せるアスクルも相当大変だとは思いますが。結果として長年地域を支えてきた地元の小規模な販売店の首を絞めることになります。
下手すると、各地方都市の販売網を潰すことになるかなと。これ、大規模小売店舗法(大店法)が廃止され、大型店が地方に進出した当時に起きた地方商流の破壊に近い形が起きるのではないかと。そして、用途が限られた世界なので再構築ができなくなる。結果として、地方の現場が崩壊するリスクさえあると感じています。
補足ですが、コレが短期のパッチ処理となった場合は、逆にアスクルが投資回収できなくなるという負の側面もあったりして「行くも地獄、戻るも地獄」的ななかなかどうしようもない未来も見えてきたり。
もうちょっと、なんかやりようなかったのだろうかと感じていて。
この観点では、アスクルもババを引かされるリスクがあるという点も付記しておきます。
■ 結論:政治の「やってる感」がもたらす副作用
「誠実な人柄」に見える政治家であっても、危機の局面では、時間がかかる根本解決よりも「目立つパフォーマンス」と「他への責任転嫁」を選んでしまう。今回の件は、その典型例なのではないかと。
アスクルを通したところで、シンナーの絶対量が増えなければ意味がありません。 待っているのは、ITリテラシーの高い大手の買い占めと、地方の小さな現場の置き去り、そして地域を支えてきた地元の販売店の衰退です。実際は、この方が最終的なダメージがでかいし取り返しのつかないことになるのではないかと恐れています。あと、何度も書きますが結果的に「配送コストなどで高くなる」リスクもありますし、「欲しいタイミングで届く」保証もあまりない感じがしていて。零細現場の疲弊は、大きく変わらないのではないか。中長期で見ると、流通網が破壊され原材料が落ち着いても、手に入らないというパラドックスが起きるリスクもあるのではないかと感じています。
私たちは、こうした「耳あたりの良い言葉」に騙されず、現場で誰が本当に汗を流し、誰が割を食っているのか、冷徹に見極める必要があるかなと。
ポピュリズムって怖いし、それを平気で利用する霞ヶ関と永田町は怖いよなーと思ってみています。
「なんとかしなければ」から始まってるので、悪気はないのでしょうけど、悪気がないのが一番怖いなというのもあるんです。イノセントってね。。。
本業的に、ひとごとではないので記録として。
落ち着くといいですよね、本当に。
