【Society】2年限定で食品消費税0%って話があったけどね

こんばんは!
選挙、なかなか凄まじい結果になりましたね。
僕的には、正直「うーん」という結果ではありますが、結果は結果として受け入れつつ、今後どの様になっていくのかということについてしっかりと考え、必要な意見を発信し、時には意見していくという姿勢を忘れないということが大事だと思っています。
そして、事実を知るということですね。
「何となくいい感じ」な耳あたりのいい、「言語明瞭、意味不明瞭」な言葉に酔うのではなく、自分たちの生活に直結する話については真剣に考え、行動することが肝要です。
あとね、大事なことはイデオロギーや概念ではなく「実現性」という話で。
ありたい姿になるにはどうすべきなのか?それを口にしている政治サイドの話に、「リアルな出口はあるのか?=エビデンスはあるのか?」ということを自分たちの頭で考えること。
これが、本当の意味での政治参加だと思っています。
ということで、今日は消費税の話が選挙で出ていたので、ちょっとまとめてみようと思います。


  • 5兆円の穴: 財源議論がないまま「介護・子育て予算」が吹き飛ぶ規模の話をしている。

  • 21ヶ月のデスマーチ: 2019年に3年半かけた工程を、今から1年強でやるのは物理的に不可能。

  • 価格は直ぐには下げられない: システム改修費とコスト増で、結局「原価」が上がるバグが発生する。

消費税の『入口』と『出口』——24.9兆円の行方と、「食品0%」のインパクト

まずは、消費税の構造を知っておくことが大事かなーと思って資料を引っ張ってきました。こちらは、財務省サイト内の「消費税の使途に関する資料」からの抜粋です。
令和7年度の消費税収は、全体で31.4兆円。結構でかい。
そのうち、国の分が7.8%で地方分が2.2%。なのですが、この7.8%のなかで1.52%分は地方交付税にあてられるため、実際の国庫に入る消費税は6.28%で令和7年度は20.1兆円でした。
統計データからの類推で、日本の最終消費支出に占める食料費の割合(エンゲル係数)は約26〜28%程度と考えると消費税のうちの食品分は5兆円くらいになる計算です。

ちなみに、実際この消費税というのは社会保障費4費(年金・医療・介護・子供子育て支援)に当てると決まっている目的税です。みていただくとわかりますが、令和7年の国庫に入る消費税収は20.1兆円。それに対し、社会保障費4経費は34兆円(内訳:年金 14.3兆円、医療 12.3兆円、介護 3.7兆円、子供子育て支援 3.6兆円)という感じですでにショートしている状況です。実は、この消費税の24.9兆円って日本の歳入の約3割を支える「最大の柱」になっていたりします。
何となく、所得税とか法人税が多く感じたりするんですが、所得税が22.7兆円で法人税が19.2兆円です。一点、注釈を入れておくと、いずれも25年1月の予想金額であり12月末の修正で、いずれも上振れしています。
上振れしたとはいえ、この5兆円という金額。国が『子ども・子育て支援』に充てている3.6兆円を上回り、介護予算(3.7兆円)をも凌駕する規模。食品を0%にするということは、介護や子育ての予算を丸ごと一つ消し飛ばすのと同等のインパクトがあるわけです。普通に考えて、軽々しく口にすべきではない規模感ですよね。

まぁ、そんな感じなので実際のところこの税収から「5兆円」が消えるのって相当なインパクトだったりします。2年やったら「10兆円」なので、この議論は本来「その欠減は何で賄うのか?」がセットでないと成立しない話だと思っていました。いや、選挙においては耳あたりのいい響きなんですけど「実現するのか?」実際って感じで。そして、問題はこの金額感だけではなく、実際にやるとなったらという技術論などもあって僕は「ちゃんと熟慮しないと、そもそも言い出すべきではないのではないか」と考えていました。というのも、この『5兆円という穴』をどう埋めるかという財政の要件定義がスカスカなだけでなく、いざ実装しようとした際のシステム要件(技術論)が、現場を無視した絶望的な内容だからです。次に、このお話をしたいなと思っています。

システム:実際の裏側は「依存関係」の数珠つなぎ

さて、前段では消費税の構造の話をしましたが、ここでは「システム」とその変更にまつわるプロセスの話を。実際は、そう簡単な話じゃなかったりします。いや、この議論をしている時に「そんなの、10%って書いてる設定を0%にするだけだろ。すぐできる」って暴論を見かけたので。
社会って、そんな単純じゃないので、そこを紐解きたいと思います。

システム開発とか移行に関わった方なら誰でも知ってるし、そのしんどさに吐き気を覚えると思いますが『納期は決まっているが、要件定義が終わっていないプロジェクト』ってまぁ地獄です 2026年度内に実施するということは、これら全ての工程を『超特急(デスマーチ)』で駆け抜けるということです。テスト不足のまま全国実装され、レジが止まる。そんな未来が予想されますが、その辺はやったことがある人間にしかわからないかもしれません。そういう意味で、「政治家を教育する」ことも重要なんだろうなーとか思っています。これって、企業の偉い人にシステムを理解してもらう話に近いのかもなとか。

1.「Q&A」という名の仕様書が届くまで(T-0)

システム開発において、要件定義が決まるまでは開発に着手できません。今回の話は、結果的に「国会決定事項」が「要件定義」の基礎になるということかなーと思っています。まぁ、決まったことを、さらに財務省が練り直して形にするのだと思いますが。I国会が始まってからになりますが、本当に消費税について議論をするのであれば、まずは国会の予算審議の場がスタートになるのではないかと考えます。これ、一月二月で決まる話でもないと思うんですよね。前項で話した様に、「代替財源」の話もありますし、事業者側への負担軽減配慮と、その還付方法なども含めた制度設計になるので。思ってる以上に、相当複雑な話になるかなーとね。

結構揉めそうなのが、「対象の定義」。「食品」の範囲はどうなるという話。酒類は除外されるとして、みりんは? 医薬部外品やノンアルコール飲料は? 現在の軽減税率(8%)の枠組みをそのままスライドさせるのか、それとも「高級食材などの贅沢品」を省く新たな線引きをするのか。この辺、「何のために食品消費税を0%にするのか」というと「生活者の生活を支えるため」という大義名分があるので一周回って「贅沢品は?」という話がおそらく出てくるだろうということが予測できて、選別が難しくなりそうだなーと思ってみています。(スピード感で行くと、この議論は省かれそうですが結構重要な項目だとは思っています。税収に直結するので)

で、この上記の情報がまとまったところで作られるのが、財務省が作成する「Q&A(適用指針)」です。これが、真の「仕様書」となるわけなんで。財務省のQ&Aが「完全に凍結(フィックス)」されるまでは、怖くてJICFSの改修もEDIのテストも着手できないというのがリアルだと思います。「Q&Aって、なんなの?」ってのもあると思いますので、2019年の消費税増税(8%→10%)時の「消費税軽減税率制度に関するQ&A」を参考までに貼っておきますね!

「日本酒は酒なので軽減率は適用されないが、原料の米は食品なので軽減率対象」「家畜として販売される豚は食品ではないので軽減率は適用されないが、その豚から取る枝肉は食品なので軽減率が適用される」「重曹は掃除用は軽減率対象外だが、食品として使う場合は軽減率対象」など、まぁ地獄の複雑さです。これ。これを、仕組みに落としていくという話なんですよね。「10%を0%にするだけだろ」って言ってる人たちは、まずこの資料に目を通してから改めて自分の発言について考えた方がいいと思います。

この「Q&A=フラグの定義」が結構重要で、ここを間違えると全国数百万点のデータベースがゴミになります。もしQ&Aの解釈を間違えたままデータベースを更新してしまったら? 全国のレジで『本来0%のはずの納豆が10%で決済される』というバグが数日間放置されることになるという話も起こり得る代物です。

2.業界標準マスタ「JICFS」と「EDI」の壁(T+3〜6ヶ月)

さて、前段のお話は「要件定義」まで。ここからが、「実装」の話。
個別の企業が頑張ってもどうにもならないのが、業界共通のインフラです。食品業界でお仕事している方ならよくご存知の「JICFS」と「EDI」。「制度設計」が固まったのちに、対象商品が決まりその商品の「JICFS」と「EDI」を変更する作業が次にやってくるかと思っています。

JICFSとは、日本で流通する数百万点の商品情報(JANコード、名称、メーカー名など)を管理する共通データベースです。いわば商品の「戸籍謄本」みたいなものです。
例えば、僕が大好きなドンキホーテで買い物してたとして、ヱビスの350mlとRed BullとアタックZEROを一緒に買った場合ピッ」とした瞬間、画面に「ヱビス 10%」「Red bull 8%」「アタックZERO 10%」で処理されるのは、このJICFSのデータが各店舗のレジに配信されているからです。当たり前と思われている日常の買い物も、こういう情報インフラに支えられているんですよ。ちなみに、レジ袋は10%対象。まじまじとレシートなんて眺めないから、ちょっと気づかない話ですよね。

では、この情報がどの様な工程で反映されるのかという話を。財務省がまとめたQ&Aで定義が提示されると、まず運営団体(GS1 Japan)がデータの中に「0%」という新しい器(フラグ)を作ります。その後、全国のメーカーが一斉に、自社商品の「商品データ=戸籍」を1件ずつ手作業で更新していきます。数百万件におよぶこの「再登録作業」が完了しない限り、レジは何も判断できません。そう、実際には決まったのちに各社がシステムと通して「手作業」での登録なんです(涙)。僕が昔登録担当やってた90年台後半は一件一件でしたが、今は一応一括登録もあります。が、これも結局エクセルなんで「インターフェイスが何か」の違いと「一覧で見れるか否か」の違いくらいかなーなどと思っています。というか、いまだに「エクセル」なんですよ。AIの時代なのに。。。とまれ、自動化を現時点で信用できるかというと微妙ですからねー。結論、その根底を支えているのは現場の担当者の膨大な残業時間と執念なんです。誰が残業代を払うのかと。政府??財務省??

この辺に興味がある方は、下記リンクをどうぞ!このリンク先ページの下の方の、関東登録シート部分の「登録の手引き」に詳しく書かれています。

JANコード統合商品情報データベース>利用ガイド

次にやってくるのが、「EDI」。「EDI」は、メーカー、卸、小売の間で「注文書」や「請求書」をやり取りする電子データ交換の仕組み、つまり「流通情報の動脈」です。毎日数千万件発生する取引を、紙ではなくデータで瞬時にやり取りするための共通言語となるデータベースです。JICFSの登録で、商品の基礎情報を登録するのですが、このEDIでは商品流通に乗せる際の販売条件も含めた取引情報がデータ化されているというふうに理解してもらえるといいかなーって思います。昔は、これを手計算で毎度やっていたんですが、システム化することで莫大な業務工数を一気に削減したんです。しかしながら、システム化されているからこそ丁寧なデータ作りが重要で、ここを間違うと全国津々浦々に被害を及ぼすというなかなか大変なデータベースだったりします。

こちらも、登録工程の話を。EDIのデータ形式(レイアウト)は厳密に決まっており、ここに「0%」という新しい計算ロジックを組み込むには、業界全体の通信ルールの改訂が必要です。もし一部の卸や小売のシステムがこれに対応できていなければ、「請求金額が1円合わないから支払いができない」「エラーで発注が通らない」という事態になり、物理的に物流が止まります。このEDIを「0%」に対応させるには、以下の工程をクリアしなければなりません。

  • 共通言語の「文法」を作り直す :EDIのデータ形式(レイアウト)は、「この場所の数字は単価」「ここは税額」と厳密に決まっています。ここに「0%」という新しい計算ロジックを組み込むためには、業界全体の通信ルールの「文法」を書き換える作業が必要です。
  • 「単価」をめぐる合意形成 :システムを書き換える前に、人間同士の「商談」という超アナログな工程が挟まります。「消費税が0%になる分、卸値(単価)をどうするのか?」という合意が、全メーカー・全卸の間でなされないと、システムに打ち込むべき「正解の数字」が決まらないわけで。実は、これが結構大変になるんじゃないかなって思っています。というのも、先に書いた通りこの食品流通に関わる部分ではいろいろなコストが乗っていて今のマージン計算は8%〜10%の税金が様々なところにかかった結果であるという「握り」あってのものなので。ここを再検査した上で、相互交渉が入ってくる感じなんです。これは、行政が一律に決めるものとはまた違うロジックが働くのです。
  • 全国規模の「疎通テスト」という大仕事: 文法が決まり、数字が決まったら、次はテストです。メーカーが送った「0%」のデータが、卸のシステムを通り、小売の受領データと1円の狂いもなく一致するか。この「疎通テスト」を、全国数万社の組み合わせで行う必要があります。ここも、なかなか大変だと思います。というのも、このテスト、実際現場の仕組みが稼働している中でダウンタイムを作らずに並行実験をしなければならないわけで。特に、コンビニエンスストアが大変になるのではないかと僕は予想しています。実装も同様ですけど。。。

もし、どこか1社でもシステム改修が間に合わなかったり、計算ロジックにバグがあったりすれば、「請求金額が合わないから支払いができない」「エラーで発注が通らない」という事態になり、動脈硬化を起こしたように流通がストップします。というわけで、ここを一律で滞りなく実施しようと思ったらそれなりの時間を持ってやらないと事故が起きると思っています。そして、またそれを2年後に辞めるって何なのっていうのが正直な感想です。これ、インボイスとかも絡めて考えるとゾッとします。適格請求書のフォーマットから消費税計算ロジックまで、また全部やり直しです。国税庁の負荷も、多分地獄になるんじゃないかなとかも想像に難くないです。

「システムなんだから設定を変えるだけでしょ?」と思われがちですが、実際には「日本中の取引ルールを、整合性を保ったまま一斉に書き換える(それも、準備期間も現場システムを稼働しながら)」という、気が遠くなるような連立方程式を解く作業なのです。そこを、ちゃんと政治家たちは理解しとるんかいなーというのが正直疑問ですが、多分理解してない。理解せずに、口にしてる。

『日本中の取引ルールを一斉に書き換える』。これはソフトウェアのアップデートではなく、『動いている電車のエンジンを、走行中に別のものに載せ替える』ような無謀な挑戦じゃないかと。そのリスクを理解せず、選挙の道具にする政治の無責任さには、現場の人間として沈黙していられないなーというか、今まさに自分とこのシステム入れ替えやっててて、自社のシステムの稼働しながらの移行でヒーヒー言ってるのに、これ全国で、それも時限2年でまた元に戻すとかどの口がいうのとかね。3.

3.「食品0%」で価格は下がるのか?——冷凍餃子が映し出す最大のバグ

さて、国会の論戦、財務省と経産省の鬼の様な取りまとめ作業、そして各社の担当者による数ヶ月の地獄の残業と億単位の改修費を投じ、情報の動脈(EDI)を繋ぎ変えて、ようやくレジで「0%」と表示される日が来たとします。で、消費者は「キター!これで10%分安くなる!」と期待してスーパーに向かいます。でもね、多分そこで目にするのは「あれ? 思ったほど安くない……」という奇妙な現実かもしれないなーと予想しています。

なぜそんなことが起きるのか。僕は、「餃子×ビール=餃ビー」が大好きなので、今回は「冷凍餃子」を例に、そのバグを解剖してみたいとおもいます。

■ 10%は「消える」のではなく「移動する」だけ

商品の消費税が0%になっても、それを作るための「コスト」にかかる消費税は消えません。まぁ、当たり前なんですけど、結構そこは見落とされがちかなと。

  • 包材代: 餃子を入れるトレイや袋の消費税は10%のまま。
  • 光熱費: 工場を動かす電気・ガス代も10%。
  • 物流費: 運送トラックのガソリン代や高速代も10%。

メーカーからすれば、「売るときは税金をもらえないのに、作るときには税金を払わなきゃいけない」という状態になります。これを専門用語で「累積税(損税)」の問題と言いますが、システム設計的に言えば、入力(コスト)には税率があるのに、出力(売価)だけ0にするという「計算式の不整合」です。元メーカーなんで、この話が出た時に「これ絶対にちゃんとしないともめるわー」と思っていました。ちなみに何ですが、社員の給与に消費税はかかりませんが、外注費には消費税がかかります。

『仕入れ額控除で最終的に還付されるからいいじゃん』という声も聞こえてきそうですが、実務はそんなに甘くなくて。戻ってくるのは数ヶ月〜1年後。その間の膨大なコストにかかる10%は、企業が身銭を切って『先払い』し続けなければならないんです。内部留保のある大メーカーならなんとかなるかもですが、中小はこんなんささえきれないと思います。 さらにインボイス制度の影響で、仕入先によっては1円も戻ってこないケースすらあります。このキャッシュフローの圧迫』と『戻ってこないリスク』を抱えながら、店頭価格を10%下げろと言うのは、メーカーに『我慢して血を流せ』と言っているのと同義です。まぁ、ほんと無理。

現状もインボイス制度により、登録していない小規模な仕入先(例えば地元の農家さんや個人配送業者など)から仕入れた場合、その10%分は「仕入れ税額控除」が受けられないんですが、売上のときにお客さんから預かった消費税(10%)があるのでそこから「戻ってこない分」を差し引いて(相殺して)国に納めるので、手元の利益は減りますが、「納税額が少し減る」という形で処理が可能です。ですが、食品の税額が0%になっってしまうと、この「相殺」が不可能になります。そうなるとメーカーの先のインボイス未登録企業が発注先から外されるという、違ったリスクも発生します。

■ 「本体価格」を上げざるを得ないメーカーの事情

メーカーはボランティアではありません。製造にかかる10%のコストをどこかで回収しなければ、会社が赤を喰らってしまいます。 そうなると、どうするか? 「消費税が0%になった分、商品の『本体価格』を10%分値上げして、トータルの支払額を調整する」という判断に踏み切らざるを得ないメーカーが続出するはずです。普通に考えるとね。もしくは、またステルス値上げの「中身を減らす」話とか。

見た目上はレシートには「消費税 0円」と印字されますが、支払う総額は以前と変わらない。あるいは、システム改修費や交渉コストを乗せられて、以前より高くなっている……なんていう、笑えないバグが全国の棚で発生します。政府は圧力で「店頭価格を下げろ」などど言いそうですが、そういう話ではなくてね。上記の調達コストを還付するなどの免税措置でも取らない限り、店頭価格は下がりません。そうなると、また「財政出動」です。それって、「税金」か「国債」になるんですが、先日の「超長期国債(40年物国債)の金利4%」の話を見ててもわかりますが、日本の信用が下がっている今、これ以上国債を乱発するのは未来に負担をかけるのでやるべきではないと僕は思います。

瞬間的な快楽のために、大事なことを後回しにするのって「覚醒剤中毒」と何も変わらんと思いますので。

■ 2年限定という「時限爆弾」がトドメを刺す

さらに、これが「2年限定」というのが最悪でして。 2年後にはまた10%に戻ることが分かっているのに、わざわざ価格を下げ、2年後にまた「便乗値上げだ!」と叩かれながら価格を戻すリスクを負いたい企業があるでしょうか?いや、まぁこれを歓迎するのはドMくらいではないかと思うのです。というか、普通の経営者なら「ないわ」って感じだと思います。赤木リツコさんに言わせると「ありえないわ」であります。

結局、現場の商談では、「2年だけなんだから、実質的な店頭価格は変えずに、内部の伝票処理だけで調整しよう」という、消費者の期待を裏切るような「握り」が横行する可能性が極めて高いのではないかと。まぁ、一時的にマージン率を下げるなり、リベート率を上げて「消費税0%セール」とかはあると思いますが、「メーカー」「卸」「流通」ともに「システム改修費」「人件費」「現場対応費」がバカみたいにすっ飛んで行った後に、そんな余力があるとは到底思えません。上記の「人・モノ・金」を政府が持つとしたら、それもさっきの「税金」もしくは「国債」になるので未来へのツケです。

ダメでしょ。。。

まとめ:誰のための「0%」なのか

膨大な税収を削り、現場にデスマーチを強いて、業界全体のシステムを書き換える。 そこまでして手に入るのが、「税金は0円だけど、商品の値段はあんまり変わらない」という空虚なレシートだとしたら、「一体この騒ぎは何だったの?」ってなるのは必至かと。「10%を0%にする」という耳あたりのいいスローガンの裏には、こうした「実務上の不整合」と「コストの矛盾」がびっしりと詰まっています。けど、誰もそういう細かいことは説明しないですよね。なので、それぞれの思い込みを思い思いに言い合う形になってしまうんです。エビデンスちゃんと確かめて、責任もって話してくれよって思うんですよね。実務サイドとしては。

そして、うまくいかないことがわかるや否や政府は『「メーカー」「卸」「流通」が悪い』というキャンペーンをマスコミを使って実施するんじゃないかと予測しています。今のマスコミ、政府の御用聞みたいな部分あるし。この点については、文春や現代に期待したいところですが、なかなか実際に買い物している人たちに届かなかったりするんですよね。残念ながら。

心ある政治家の皆さんには、一度でいいからJICFSの登録画面を見て、EDIの仕様書を読み、冷凍餃子に限らず、食品の原価計算書を眺めてみてもらいたいなーとか思います。野菜一つ取ったって、そこに関わる経費には消費税がかかるんですよ。。。個人的には、平 将明さんにこの辺を期待したいなと思っています! この方のご実家、青果市場の仲卸事業者なので、今回の話の「リアル」をよくご存知だと思いますので。

名目上5兆円を減税を実施して、その結果何が起きるのか?

ここまで読んで「現場が大変なのはわかった。でも、それで少しでも家計が良くなるならいいじゃないか」と思う方もいるかもしれません。ですが、システム設計や経営の視点で見ると、このプロジェクトは「投資対効果が完全に破綻」していますし、実際にこの投資対効果の失敗は必ず「増税」という形で帰ってきます。要は、誰も得しない話になる可能性が高いんです。

なかなかにシビアな「納期」シミュレーション

システム改修において、最も残酷なリソースは「時間」です。 気合いと根性で巻ける話でないです。「2026年度内に導入」という目標に対し、これまでのプロセスを分解して、現実的な工期を積み上げてみると、まーかなりシビアです。普通に考えて「無理筋」。というか、社会全体への影響を考えて「無理をおす」はやってはならない話。

① 財務省による「要件定義」(Q&A確定):約3ヶ月

政治が決めても、現場が動くための「仕様書」が出るまでにこれだけの時間がかかります。前回の軽減税率時も、細かな判定基準が固まるまでには数ヶ月を要しました(2016年の決定事はその後もずっと修正が続いたんですが)。ここが全てのスタート地点です。書いてないけど、その前には「政治的決定」のための期間があることも含みおきで。

② 業界インフラ(JICFS)の「基本設計」:約6ヶ月

仕様書を受けて、GS1 Japanがデータベースに「新しいルール(フラグ)」を定義し、システムを改修します。この「ルール」がない限り、メーカーは1件も商品登録ができません。このシステム改修後、メーカー各社が属性情報を再登録するという作業が入ります。一つにまとめてはいますが、「GS1 Japan:ルール変更」後に「メーカー各社:ルールに基づき、属性情報再登録」という形になるため少なく見積もってもこのくらいはかかると思われます。ちなみに、JICFSに登録されているデータ数は、約510万点でそのうち食品カテゴリーで260万点ほど。半分が、食品という感じです。このデータベースについて興味あれば、こちらのリンク先を参照にしてください。

JICFS/IFDBとは

③ 流通動脈(EDI)の「詳細設計・接続テスト」:約6ヶ月

メーカー、卸、小売を結ぶ通信プロトコルを書き換えます。単なるプログラム修正ではなく、業界全体での「疎通テスト(データが正しく届くか)」が必要です。ここで1円でもズレれば、やり直しです。影響度があまりにもでかいので、相当慎重に動くことになることは予想に難くないです。そして、そもそも論ですが「条件」の引き方をやり直すことになるので、ここの調整が大変そうだなぁと。「商品1件ごとに0%計算して端数を切るのか」「伝票単位で合算してから処理するのか」とかの入り口の議論と、「10%で買ったものを0%導入後に返品した場合の処理方法」などのイレギュラー処理の方法など。全国ルールとなりますので、何となくで決められないというね。これを取り仕切っているのが、「流通BMS協議会」。三者三様のそれぞれの立ち位置での意見が出るので、これも決まるまでに相当な時間がかかると思われます。
決まった後が、「疎通テスト」なんですが、メーカー・卸・小売の3社間で「請求額」と「支払予定額」が完全に一致するかを、通常品、ケース販売、特売品、返品などの全パターンで検証することになり。これはいっぺんにできるわけではなく、多対多で実施することになるためテストの順番待ちという、これまた大変な話も発生するんですよね。それもあって、ここも半年は絶対かかるよなーと思っています。

④ 個別企業の「実装・マスタ更新」:約6ヶ月

ようやく各社の番ですが、ここからは「メーカー」「卸」「小売」の三位一体で、同時に、かつ全く異なる作業が始まります。

■ メーカー:数万点の「原価計算」と「販促物」の作り直し
  • マスタ更新: 自社で抱える全商品の「税区分」を一つずつ書き換えます(カテゴリー一括処理できるソフトがあればいいですけどね)。
  • 販促物・Webサイト: 商品カタログ、公式サイトの価格表記、キャンペーンチラシ。すべて「0%」を前提にデザインから修正し、印刷し直す必要があります。
  • 商談: 前述の通り、「税が0になる分、卸値をどうするか」という価格交渉を全取引先と行い、すべてシステムに反映させます。
■ 卸(問屋):情報の「ハブ」ゆえの板挟み
  • 計算ロジックの変更: メーカーからの仕入れ価格と、小売への販売価格。両方の税率がズレる期間の「マージン計算」が1円でも狂えば、会社の利益が吹き飛びます。
  • 伝票処理: 出荷案内書(ASN)や受領データ。膨大な数の取引データが流れる「情報のバイパス」が詰まらないよう、ハードコアな監視とデバッグが変更当初の一定期間続きます。
■ 小売(スーパー・コンビニ):最も「物理的」で「泥臭い」最前線
  • 店頭のプライスカード(棚札): 数万点の商品棚にある「税込価格」の札。これを一晩ですべて張り替えます。もしレジのデータと1円でも違えば、店頭でクレームの嵐になります。
  • EC・アプリ: ネットスーパーやスマホアプリ上の表記。レジ、棚、ネット、すべてが「一瞬の狂いもなく」同期しなければなりません。
  • オペレーション教育: 「これは0%、これは10%」というQ&Aを、全国の店舗スタッフ、アルバイトの方々に徹底教育します。現場の混乱を最小限に抑えるためのマニュアル作成だけでも膨大な工数です。

合計:最短でも「21ヶ月」かなーと(読み的に)

これ、「各工程がノーミスで、前の工程が終わった瞬間に次が始まる」という、奇跡のようなスケジュールを組んだ場合の話です。

もし2026年度末(2027年3月)の導入を目指すなら、逆算すると2025年の秋には「財務省の完全な仕様書」が手元に届いていなければならない。でも、今はもう2026年です。 無理に間に合わせようとすれば、それは現場への「デスマーチ」の強要となり、凄まじい数のバグと、それを修正するための追加コストを生むことは想像に難くないなーと。

社会全体で数千億円規模の「死に金」が発生する

「システムなんだから、設定を変えるだけでしょ?」 その無邪気な一言の裏で動く、生々しい「金」の話をしておかないとダメかなって思っています。いやさ、ほんとに現場知ってる人間が聞いたら殺意すら覚える話なんですよ。「簡単でしょ」って一言は。

1. 1社あたり数千万〜数十億円の改修費

大手チェーンや中堅以上のメーカーであれば、基幹システム(ERP)からPOSレジ、在庫管理、ECサイトまで、すべてのプログラムを書き換える必要があります。 前回の軽減税率時のデータでは、大手小売一社で数億〜10億円規模の改修費がかかった事例もあったとどこかで読みました。これが日本中の企業で一斉に発生します。これ、誰得なの??

2. 「生産性ゼロ」の残業代というコスト

今現在、日本のITエンジニアは空前の人手不足です。それは、僕みたいなマーケ界隈でデータを見てるというだけの人なのに「エンジニアとして」と声がかかるくらいなんでそうなんだろうなーと実感値もあって。
本来ならそのリソースは、DX(デジタルトランスフォーメーション)や新サービス開発など、「未来の利益を生む仕事」に使われるべきものです。 それを「税率を0にする(そして2年後に戻す)」という、1円の利益も生まない「後ろ向きな作業」にのべ数百万時間を強制投入させる。この機会損失(失われた利益)は、計り知れません。日本経済全体に対する打撃であり、ロスト感満載です。2年後に戻さないならまだしもね(それはそれで、財源どうすんだよって話ですが)。

3. 2年後に「もう一度同じ金額」をドブに捨てる狂気

ここが最大のバグというか狂気。この数千億円規模の改修費は、投資ではありません。2年後には、また元の仕様に戻すために、ほぼ同額の改修費をもう一度払うことになります。

  • 導入で数千億円。
  • 2年間の運用で現場パニック。
  • 撤去でまた数千億円。

合計でいくらになるでしょうか。アホかと。この「日本中で浪費される改修費」を、そのまま国民に現金給付したほうが、よほど経済効果があるのではないかと疑いたくなるレベルです。そして、これほっとくと「各社負担」になるわけで、そこも含めて結果としてそれは価格添加されるので「あんまり減税効果は見込めない、どころか下手すると値上げ」って話に繋がるんです。

やる意味、あるんでしょうか?

ここまで書き連ねてきましたが、これってやる意味あるんでしょうか?
僕は、ないと思います。というか、やった結果の負債を追うのは国民になるなというところです(企業への補助金、出さないと無理でしょうし。税収減るのに。。。)。
これだけの巨額の「民間コスト」を強制的に一時的とはいえ支払わせたとして、その結果手に入るのが、

  • メーカーが血を流し(損税・キャッシュフロー圧迫)
  • 流通が混乱し(JICFS/EDIデスマーチ)
  • 現場が喧嘩し(0% vs 10%判定)
  • 結局、価格が下がらない(コスト回収の値上げ)

という未来だとしたら。みなさん、どう思います??

2019年、日本が「8%から10%への増税」と「軽減税率」を導入した際、法律が成立してから施行されるまでに、どれほどの時間をかけたかご存知でしょうか?

答えは、約3年半(42ヶ月)です。

政府は一度施行を延期してまで、現場に準備期間を与えました。それでもなお、2019年10月の施行当日は、システムベンダーがパンクし、Q&Aの修正が直前まで続き、全国の経理担当者が悲鳴を上げるパニック状態となりました。

翻って、今回の議論はどうでしょう。 2026年度中という目標まで、残された時間はわずか1年強。 前回の1/3以下の期間で、あの時以上の「地獄の要件定義」と「全インフラの改修」を完遂しろと言っていて。しかも、その苦労は「2年後にはすべて捨てる」という前提。3年半かけて築いたダムを、1年で突貫工事し、2年後には爆破するようなものです。これを「無駄」と言わずして何と言うのでしょうか。いや、マジでもうやめようよ。「積算してみましたが、やはり現実的ではありませんでした。ごめんなさい」これで手打ちということで、ちゃんと詳らかにすれば誰も怒らないと思います。

むしろ、「給付付き税額控除」をしっかりシステム化して「困っている人、家庭に正しく届ける」に全振りして「人・モノ・金」を張るのが正解だと考えます。
その辺の話は、またどこかで書きたいなと思います。

ではではー( ´∀`)

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